008: 50MHz 3A5 single tube transceiver (super regenerative and 80mW output)

 これはポータブルVHFセットの原点ともいうべき古典トランシーバ。自分にとっては子供の頃憧れたアマチュア無線の原風景の一つである。現代とは別世界の60年前のハムたちが取り組んだモノとコトを追体験し、味わってみようと考えた。

 21世紀にこれを甦らせるなら是非ともBC610のケースでと、無理を言ってJA0BZCの最後のストックを譲って頂いた。そのケースに収める回路はオーソドックスな自励式だが、昔と違うのはタンクにトロイダルを使ったこと。普通のソレノイドコイルと比べて一次と二次の結合が深いので、ANT負荷変動があると忽ちクエンチングが止まってしまうので困ったが、二次側直列に20pFのトリマコンデンサを入れて結合調整したら問題は解決し、送信時の出力も最大値を得ることができた。

 RFCのパスコンは0.001µFがベストで、容量を大きくし過ぎるとクエンチングの波形が鈍って復調感度が下がる。例えば0.01µFだとクエンチングノイズは随分マイルドになり音声出力も増えるが、復調信号の明瞭度が著しく下がってしまい受信感度(S/N)は10dBほど悪化する。RFCは4.7~22µHの間で取り換えながら様子を見たが、クエンチング安定性の観点では10µHがベストだった。また、グリッドリークの5MΩはグラウンドよりもプレートにつないだ方がずっと安定したクエンチングが得られたことを付記する。

 SGから80%程度の変調信号を入れると0dBµVはFBに受かり、-5dBµVでも信号は判別できる。これは下手なスーパーヘテロダイン並みの感度で、つまり感度に限ればVHFアマチュアは昔から相当高いレベルで受信していた証でもある。問題点の一つは受信時にもANT端に0dBm以上の発振出力が漏れ出てしまうこと。原理的に仕方のないことだが、このため雑音をジャージャーまき散らすことになり、都会地では全くの近所迷惑となってしまう。もう一つは選択度の悪さ。これはもう超ワイドと言って良く、帯域300Kcは優にある。何故そんなに広いのかは発振波形を見ると理解できる。VRをゼロから上げて行くと先ず50MHz帯で帰還発振が始まり、更に上げると「ポッ」と音がして130Kcくらいの周波数のブロッキング発振が乗っかり始めるが、この発振エネルギーの周波数幅は数百Kcに渡っている。更にプレート電圧を上げて、クエンチングがきれいに掛かるようになっても、このワイドな波形フォルムは変わらないから選択度は自然ワイドになってしまう(この時のクエンチング周波数は約90Kc)。

 送信時には超再生検波部はコルピッツ発振回路に早変わりする。実験用の定電圧電源をEp 80Vに設定し、グリッドリークRgを33k→20k→10kΩと変えてみると、送信出力は+17dBm→19dBm→20.5dBmと上昇するが、この間にIpは5mAから8mAまで増えていた。Rgを10kΩに定め、Ep 70Vで再測すると出力は+19dBm(80mW)である。Ip 6.5mAで入力450mWだから効率は18%。発振段出力としては平均的な値である。スプリアス実測結果は二倍波が—39dB、三倍波が—35dBであった。タンクの負荷Qは5しかないから、これは計算値よりもかなり良いレベルにあると言って良いが、恐らく二次側リンクの直列共振(負荷Q=2)がスプリアスの低減を10dB以上助けていると思う。

 変調は「FMだよ」と言っても良いくらいで、FMモードで聞くときれいに復調できるが、カーボンマイクから離れて喋っても、デビエーションは±10kc近く有るからこれは当然かもしれない。三極管の自励発振器を振幅で揺さぶるから、どうしても可変リアクタンス管的動作になってしまうのであろう。なお、このFMっぽいAMはAM受信機でゼロインするとかなり音声不明瞭だが、同調を少しずらしてスロープ検波すれば喋っている内容はすべて了解できる。ベンチで測った周波数安定度は思ったよりFBで、送受を繰り返して25分後に1.5kcのドリフトだったからAMのQSOなら十分実用になる。この安定度にはB電源のレギュレーションが最も影響するが、BC610鉄ケースの機械的頑丈さもかなりプラス貢献していると思われる。ケースの空きスペースに一度は昇圧型DC/DCコンバータを内蔵してみたが、これは失敗だった。ユニット基板上にあるスイッチング用インダクタから3A5のRF入力部に直接高調波ノイズが飛び込み、所々でクエンチングがマスクされてしまうのだ。仕方がないので70VのD/Dコンだけは外付けの小さなアルミ箱に入れて使うことにした。

 単球トランシーバは至極簡単な構成だがなかなか奥が深い。形を作るのは容易だが、本来の最高性能を追究するつもりなら大まじめに取り組む必要がある。完成したセットは今日の日常交信には適さないが、歴史遺産として動態保存しようと思っている。2018年製作。
50.3-51.1MHz, AM 80mW, DC 3V/115mA & DC70V/11mA



This is the classical transceiver which should also be called the starting point of a portable VHF set. And that is one of primal scenes of the amateur radio for which I longed around a child. I planned to make the transceiver be revived today, and completed it using the old BC610 box actually (fifty years after!).

This 3A5 single tube transceiver is just easy composition, but it's very profound. That's my gentle impressions. If the highest performance that possesses originally will be examined, a manufacturer has to wrestle seriously.

The completed set is unsuitable for today's amateur radio contact, but I think I'll preserve it importantly as a historical legacy of ham radio. The making is in 2018.

50.3-51.1MHz, AM 80mW, spurious -39dB(2nd harmonics),sensitivity -5dBµV, stability 1.5KHz drift after half an hour, DC 3V/115mA & DC70V/11mA

 

 

 

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2018年04月15日